劇場トークのご報告、第5弾をお届けします。
【7月13日(火)】
テーマ;「人工呼吸器をつけて恋をする」
ゲスト;小田政利さん(出演者)、北沢岳哲さん(呼ネット、自立生活センター北)
(小田政利さん)
映画にちょこ~っとだけ出てる、小田です。よろしくお願いします(拍手)。おまけに海老原さんに「ちんちくりん」とか言われてましたけれども…はい(一同笑)。
(北沢岳哲さん)
自立生活センター・北の「ちんちくりん」の下で働いている北沢と申します(笑)。よろしくお願いします。(拍手)
(小田)
この二人とも一瞬だけしか映画に出てません(笑)。今日のトークのテーマなんですけど、「人工呼吸器をつけて恋をする」。
(北沢)
全く打ち合わせもなく、どういう展開になるのかな、ってことで、今ここにいます。恋の話って、呼吸器付けてるからとか関係なく、普通に小田さんがどんな恋をしてこんな感じになっちゃったのかなっていうところを聞いてみたいなというのが正直なとこなんですけど、皆さんどうですかね。”こんな話聞きたい”とか、何かあります?多分初恋の話を聞いてもすごいつまんないと思うので、最近の話を聞いた方がいいのかなって。大人になってから、小田さんが二十歳を迎えて人工呼吸器をつけた辺りの話をしてもらえたらなと思います。
(小田)
「人工呼吸器を付けちゃうともう何も出来ない」というのが通説になっちゃってますが、僕の場合はその逆。呼吸器付けてから生活はガラリと変わってしまいましたけど、呼吸器付けて動き回っているってことで、よくあちこちで声かけてもらえて、こうやってお話させてもらうことが結構多いんです。そんなんであちこちでしゃべってるうちに…ひとつの事業所に呼ばれてトークに行ったんですけど、その時に出会った彼女と…付き合うことになりまして。呼吸器を通じて彼女と連れ合えて、色々とあちこちでデートとかさせてもらうようになりました。で、その時の彼女…いやその時って言ったら誤解を招くな(笑)。えっと…
(北沢)
そんないっぱいでしたっけ?
(小田)
いえいえいえ。そんなことないですよ(笑)。
(北沢)
ちなみに独身なので、小田さんは。二股も一回もかけたことないので。それだけは言っておきます。
(小田)
ありがとう、いいフォローしてくれて。おまけにその彼女と同棲することになりまして。ただ僕の場合どうしても両手両足動かないだけじゃなく呼吸器もつけちゃってるので、必ずこうやって、今日も右についてるヘルパーさんがついてないといけない。デートするんでも家にいるんでも必ずついてないといけない。彼女と楽しんでるときはいいんですが、ケンカするときもあるわけですね。そうすると横についてるヘルパーもだいぶ困るみたいで、「どこにいればいいんだろう」みたいな感じになるみたいですけど、たまに彼女が物投げてくると、うまいんですよ。パッと車いす引いてくれて避けてくれるんです、ちゃんと(笑)。ありがたいことに。そういう介助内容になっちゃってるんですけれども(笑)。
いろんなことありました。ケンカして「出ていけ」って言われて出てったこともありましたし。そういう時に限って雨が降ってくるんですね。雨の中傘を忘れ、雨に濡れながら街に出ていくということもありましたけれども。映画に出てきた、亡くなった小日向君も若い子だったけど「彼女欲しい彼女欲しい」って、よく聞いてました。北沢さんが小日向君のコーディネイトやってたんです。小日向君とそんな話とかしなかった?
(北沢)
しましたね。実は亡くなる二週間くらい前にも、「最近ちょっと元気ないんだけど、飲みに行きたいんですよね」「どんな店がいいの?」「かわいい子がいる店がいいんですよね」「あっそう。じゃあ、探すね」って。その時いろいろなタイプを聞いて「じゃあ、そういう子がいるかどうか調べとくね」って言ったのが、僕との最後の会話になっちゃった。本当に飲みに行けてたら、彼はどうなってたのかな、とか、彼はどうやって口説くのかな、とかすごく興味があったので。だから…ちょっとね、それが残念かな。でも多分、20代の感覚ではいたかな。かわいい子見ると鼻の下がア~ンって伸びちゃって。
(小田)
ホント違うよね。
(北沢)
もう表情が違うので。如何に普段つまんないのかな、っていうくらい表情の違いが明らか。多分今、そういうこと言うと、この辺でウロチョロしてるんですよ。「なんか言ってます?」って。
(小田)
かも知れない(笑)。でも、自分たちもやっぱりね、呼吸器使ってても人として思うことは同じなので。僕の場合は、特に同棲始めてから思ってもみなかったことを彼女が言いだしまして。「ペットを飼いたい」と。呼吸器ユーザーって衛生面的に割と「ペットだめ」って先生から言われるんです。でも結構いるんですよ、呼吸器を使ってる人でも。映画の中で出てきた渡部さんもあのデカ~い犬が、もう喉の穴開けてるところに顔寄せてきて今にもペロペロペロペロしそうな感じですけど(笑)。僕も彼女が言いだして、ペット飼いました。桜文鳥って小鳥なんでど、「キキ」って名前つけて飼ってました。で、介助者を使いながら、僕もなんかかわいくなってきちゃって、「エサこれくらい入れて」って鳥かごの中に入れてもらったり。あとはちょっと離れたところからキキをポーンと空に飛ばしてもらうと僕のおでこに止まるんです。それがかわいくてね、ホントに。ただ僕よりも彼女の方をキキは好きで、すぐまた彼女のところに飛んで行っちゃうんですけどね。その後、僕のおでこに生暖かいものが残ってるんです。必ずフンしていくんですね(笑)。そうすると介助者が黙って僕のおでこ拭いてくれたりとか。自分の手が動かないので介助者がいつもついてくれてるので、いろんなことをやってくれてます。
あとは子犬。ポメラニアンとチワワのミックスって言ってましたけど、ホントにかわいいんですよ。他の人が子犬連れて散歩してると心の中で「あぁ、うちの子が一番かわいいな」なんて、ついつい親バカぶりを発揮しちゃうんですけど。そうやって子犬とか小鳥とか飼うことも出来ました。あきらめちゃうと全部終わりだと思うので、本当にやりたいとかこうしたいと思っていれば絶対に出来ると思います。
(北沢)
そうですよね。「呼吸器つけてるから」とか「障害を持っているから」とかはくっつけなくていいのかなと。その前に人であることが大事であって。この時間で小田さんの恋バナを聞きだすのはとても無理なんで、ここから先のすごくダークな話は小田さんをつかまえて飲みにでも誘って、ちょっと滑舌良くなったところで聞いたら色々話してくれると思うんですけど。多分、普通に恋をして普通にケンカをして…普通にっていう、その「普通さ」が、呼吸器をつけてると「普通じゃない」ように思われる、そんな気がしてならないので。この映画も、「そうじゃないんだ」ってことが伝わればいいのかなって思って、自分もほんとのちょっとだけ、出さしてもらいました。
(小田)
まぁ~あんまりね、僕の恋バナなんて聞いても誰も面白くないな~なんて思いながら(笑)。
(北沢)
つまんないですよ~、ホントつまんない。途中から愚痴になるから(笑)。
(小田)
そこまで強く言うか(笑)。まぁね、あの、いろいろありまして…、三年くらい同棲してたんですけれども、私の甲斐性の無さで実は彼女が出て行っちゃったわけですね、はい…あ、ここ、みんな笑うところよ(笑)。その時にキキも子犬も連れていかれちゃって、なお寂しくなっちゃった。この話をすると暗い話で終わってしまうので…。
(ヘルパーに)ね、泉君。え?なに?マイク向けてんの?言わしてくれないの?ダメなの?…この三人、同じ事務所にいて会議もよくやるんですけど、先週の会議でも横にいる泉君がいきなり何の脈絡もなく、「プライベートでちょっと一言」って言って、「結婚しました」とか言いまして…。皆さん、拍手(拍手)。おまけに「2月に子供生まれます」とか言いやがって!みんなもう一回、拍手(拍手)。
ま、いっか。
僕…呼吸器付けたばっかりのときは、もう、ベッドに寝たっきりでした。一年間ぐらい、ずっと。でもいろんな人に情報を教えてもらって動けるようになって、今の事務所からお給料ももらえるようになりました。本当に呼吸器つけちゃうと、自分だけが寝たっきりっていうんじゃなくて、介護してくれる家族も、呼吸器のホースがポーンて外れてしまうとすぐ息が出来なくなってしまうので、そういうところで家族が離れられない。自分で痰を出すことが出来ないので、機械の力を借りて吸い出すってことをするんですけど、それをやらないと痰がたまって窒息してしまう。やっぱり家族が離れられない。
そういう状況の中で、ヘルパーを使うとか必ずやり方はあるので、僕自身、こういう生活が出来るとは思っていなかったので、筋ジストロフィーという病気で「いずれは呼吸器付けなきゃいけない」って言われていたのを「呼吸器は付けないでくれ」って言ってました。本当に「お先真っ暗」と思っていました。
「尊厳死法」が、僕が呼吸器を付けなきゃならなかった97年にもし出来ていたら、もう僕はここにはいませんでした。その通りに医師が実行してくれてたと思うので。「尊厳死法」は、治療の見込みがない場合、本人の言葉を聞いていたり文章として残っていたりしていれば、医師の判断で呼吸器をつけなくていいという法案だったので、もしそれが出来上がっていたら、僕はここにはいませんでした。
でも、家族が僕の意思とは関係なく「呼吸器付けて」って言ったそうです。医師は「呼吸器をつけてももう二度と意識は戻らない」と言ってたんですけど、「それでも付けてください」って言ったそうです。それから医師の診断とは全然違って、付けて1時間もしないうちに意識を吹き返しました。
家族の意思によって、僕はここにいることが今、出来てます。だから第二の人生です。呼吸器付ける前とは違う人生になってしまいましたけど、今ここに生きている。家族だけでなく色々な人とめぐり会って、本当に自分の人生を楽しめてます。
「尊厳」っていう言葉がありますけど、尊厳は死ぬことではなくて、生きること。自分たちも普通に、みんなで繋がりを持ちながら生きていきたいな、と思ってます。その中でこの映画もどんどん広まっていってほしいなと思ってるので、みなさんも広めてってほしいなと思っています。
是非、よろしくお願いします。
(北沢)
よろしくお願いします。(拍手)
以上
(要点採録/文責 入間川仁)