<人工呼吸器の歴史と在宅呼吸器利用者の現状>
世界で最初に開発された人工呼吸器は現在のものとは全く異なり、タンク式呼吸器あるいは陰圧式呼吸器などと呼ばれるもので、頭部以外の全身をタンクで覆い、患者の周囲を陰圧(圧を下げる)にすることで胸郭を広げ、肺に空気を取り込むものであった(図1:1838年にスコットランドのJhon Dalzielらが発表したタンク式人工呼吸器。 陰圧の作成は2つのふいごを用い手動で行なわれていた)。
最初の呼吸器は手動だった。左の空気入れのようなレバーを人が上下させると、箱の中の圧力が変化する。
(引用: http://medt00lz.s59.xrea.com/nippv/nippv.html )
1928年にアメリカのPhilip Drinkerらによって「鉄の肺(Iron Lung)」とよばれる機械式の人工呼吸器が実用化され、40~50年代に大流行したポリオによる呼吸不全の治療のため大量生産され、世界中で広く使用されるようになる。(図2)
その後、気管切開と気管挿管の医療技術の発達により、それまでの陰圧式に代わって現在の陽圧式(気管チューブなどから肺に空気を送り込む)人工呼吸器が主流となっていった。
在宅用の人工呼吸器が現れたのは1975年頃からで、80年代前半、先駆的な運動をしていた人工呼吸器使用者が地域での生活を願って在宅生活を始めたが、当時は1台200万円以上する呼吸器を自費で購入するなどして自宅へ持ち帰るしかなく、在宅へ戻るケースは稀であった。
1950年ごろのICUの写真。鉄の肺が大量に並んでいる。 出典Wikipedia
しかし90年に「在宅人工呼吸指導管理料」が診療報酬で算定できるようになり、病院から呼吸器をレンタルできるサービスが整備されたことで在宅生活への道が大きく開ける。
そして「病院から在宅へ」という医療改革の流れの中で診療報酬が大幅に加算され、また呼吸器がコンパクトになり在宅でも扱いやすくなってきたことで、在宅人工呼吸器利用者は現在約2万人にまで増えている。(出典:厚労省平成26年社会医療診療行為別調査)
現在の在宅用人工呼吸器。5kg前後と持ち運びしやすいものが多い。(図3)
また2011年の東日本大震災の後には、当事者の運動により、人工呼吸器に必要なバッテリーも医療費で借りられるよう診療報酬が改定された。AC電源につながなくても動かせるバッテリーがあることで、緊急時の不安が減っただけでなく、日々の外出、旅行などを楽しむ呼吸器ユーザーも増えてきている。しかし、毎月必ず受診しないと保険適用にならないことや、呼吸器利用に必要な滅菌水やカテーテルといった備品の補助が病院によって違うといった問題、診療報酬内でカバーできない部分のバッテリー購入費は全額自費で高額なこと、吸引を行う訪問介護者に特定の資格が必要なこと、更に近年改正された難病法(難病の患者に対する医療等に関する法律)により、呼吸器の使用時間で医療費の負担額が違ってくるといった問題など、呼吸器ユーザーが地域で暮らしていくための課題や負担は少なくないのが現状である。
<関連リンク>
・当事者(団体)
全国自立生活センター協議会
呼ネット~人工呼吸器ユーザー自らの声で~
CIL東大和
CIL北
CIL北見
NPO法人DPI(障害者インターナショナル)日本会議
ヒューマンケア協会
・支援団体
日本ALS協会
人工呼吸器をつけた子の親の会(バクバクの会)
NPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会
障害児を普通学校へ全国連絡会
・その他
株式会社五大システム