トップページ > ニュース一覧 > 【報告】劇場トーク「風を起こしてきょうもゆく」(Part.17)

ニュース

【報告】劇場トーク「風を起こしてきょうもゆく」(Part.17)

劇場トークのご報告、第17弾をお届けします。

【7月29日(金)】
テーマ;「風を起こしてきょうもゆく」
ゲスト;小田政利さん(出演者)、末森樹さん(音楽)、宍戸大裕(監督)

(宍戸)
お越しくださいましてありがとうございます。今日は音楽をつくってくださった末森樹さんと出演してくださった小田政利さんと3人でお話をしていきたいと思います。
その前に26日の事件がみなさんご存知のようにありまして、僕らもすごくショックを受けていて、事件の後から黙祷をしてから始めようというふうに思っています。よろしければみなさん一緒に黙祷をしてから始められればと思います。やまゆり園で亡くなられた19人の入所者の方にご冥福をお祈りして黙祷をします。黙祷。

‐黙祷‐

ありがとうございます。
この作品をつくっていて、僕は障害のある人と出会えばいろんな差別とか、知らないことから起こるいろんな誤解って無くなっていくんじゃないかと思っていたんですけど、事件を起こした人が施設の職員だったんですね。僕は、この映画を作りながら東村山にあるさやま園という知的障害者の入所施設の映画もつくっていました。
そこは100人の入所者がいらっしゃるところで、1964年、やまゆり園と同じ年にできた大規模な施設です。52年もそこに暮らしてらっしゃる方がいて、みなさんとても素敵な方々で、僕は映画を撮りながら皆さんに出会えてよかったなという風に思える人たちでした。そういう人が命を奪われて、今すごく解せないなと感じているのが、亡くなった方の名前が全然出てこないこと。ようやく重傷を負った人がお一人名前が出てきて報道されていたんですけど、亡くなった方の名前は決して出てこない、ここに今の日本の社会の知的障害者に対する構造的な差別があるなって、すごく感じます。
どこかにこの人たちは、名前も顔も出せない人なんだっていう勝手な思い込みがあって、それを社会が許容してしまっているんじゃないかなって、すごくもやもやしていて。この人たちのことをもっと知りたい、どんなふうに暮らしていたのか、どんな人だったのかをもっと知りたいなって、いま思っています。
小田さん、事件をどのようにお感じでしょうか。

(小田)
ニュースで散々事件の背景だとか、犯人像の話が出ていますが。自分が感じているのは、あそこで出てくる言葉・キーワード。いろんなことが言われています。障害者って言葉の後に「動物」って言われてしまったり、「コミュニケーションが取れない」と言われたりだとか、そういうところでまさにこの映画の中で、児玉さんがご自身のお子さんに障害があって、自分たちや周りとは言葉が違う、やり方が違うかもしれないけど、自分なりに言葉を発しているんだというようなことを映画の中で仰っていた通り、決して意思やコミュニケーションが無いわけではなくて、独特のものを持っているということ。それを一概に偏見で、固定観念で、「コミュニケーションが取れない」と決め付けられているというところでは、そういうの無くして欲しいな、無くなって欲しいなという風に思って、この映画にもそういう期待を込めていたんですけれども、一緒にいたのになぜそんな風に思ってしまったのかなというのが、すごく怖い。
昨日あたりから「ヒトラーの思想」と言うのを取り上げていましたけれども、自分なんかもこの事件が起きた途端に、連想していたんです。手紙なんかを見ていてもね、実は見た時に思ったんです。憶測で言うのはやめようと思っていたんですけど、昨日あたりから報道として出てきていて、「経済的に価値がない」とかっていう言葉がキーワードで出てきた時に、子どもたちにそのキーワードだけが残ってしまって、自分たちが「価値がない」、「経済効果がない」、だからいてもしょうがないというようなキーワードが残っていってしまうことが怖いなって思います。
その先にある自分たちの存在っていうのを知って欲しかったし、僕みたいに呼吸器をつけていて、機械がないと息すらできないっていう中でも、色んなものが生まれてくるってこと。本当にこの映画を媒体として広まっていって欲しいと思っていたので、今報道されていることっていうのは、確かに事実として伝えないといけないのかもしれないけど、あそこで終わらせられてしまうと、自分たちの存在ってどうなってしまうのかなって。子どもたちが聞いた時に、どういう風に残ってしまうのかなって、それが僕としては怖いなって思います。

(宍戸)
報道もすごい量が流れますし、犯罪を犯した彼自身のことが例えば精神障害があるとか、いろんな特性で語られるんですけど、彼一人の問題じゃなくて、彼を生んだ社会がどんな価値観をもっているのかっていうことを問うていくべきなんじゃないかって思います。政治をみても経済の話しかしないし、ヘイトスピーチとか、少数者への暴言とかが許容されている社会がまずあって、その中で極端なことを言う人がどんどん表に出てくる。それは世界的にそうですけど、そういうことでいいのかっていうこと、こういう事件が起きる背景に、そういうものを許容している今の社会の人の責任があるんじゃないかと思うので、これは「変な人が起こした事件」とかではなくて、私たち自身がどこかで加担している問題じゃないかなって思います。そういう風に受け止めたいなって思っています。
今日はそんなに時間がないので末森さんの曲をぜひ、聴いてもらいたいなと思います。『麦色の日』という曲です。

(末森)
末森です。音楽を担当させてもらっています。今日弾く曲は最後に流れた曲で、海老原さんをイメージして作った曲なんですけど、今日は海老原さんの活発なところではなくて、内側の温かさとか、優しさみたいなものをイメージして作った曲です。

‐『麦色の日』演奏‐

(宍戸)
海老原さんが映画の中で言っていたように、自分たちがどんどん外に出て行って自分たちを見せることが、大切だと仰っていたことが、今まさにそういう時が来たなって思っています。障害のある人が地域に出て、自分の姿を見せてこんなに楽しく生活しているっていうことが、こういう事件に対する一番大きな抵抗、”そうじゃないんだ”って見せることが、こういう事件をなくしていく上での大事なことかなって思います。
8月8日にハートネットTVに海老原さんが出演されるようで、今回の相模原の事件を受けて緊急生放送の番組があるようです。そちらもぜひご覧いただければと思います。今日は、本当にどうもありがとうございました。

以上

(要点採録/文責 西尾直子)

▲ページの先頭へ戻る