劇場トークのご報告、第18弾をお届けします。
【7月25日(月)】
テーマ;「映画を通して伝えたかったこと」
ゲスト;宍戸大裕(監督)
(宍戸大裕)
みなさん、こんにちは。今日はお越しくださいまして、どうもありがとうございます。監督しました宍戸と申します。この作品が出来たのが去年の6月なんですけど、それ以来、僕は一人で話をするというのが今日、初めてです。
普段、人工呼吸器を使ってる当事者の方と一緒に話をすることが多いので、僕は今日何を喋ろうかなと考えてきました。僕はこの作品の中で、今、ふたつ思っていることがあります。ひとつが新居優太郎君のこと。もうひとつが、この映画の中では出てこなかった、呼吸器を使いながら暮らしている方々のことです。
新居優太郎君について言いますと、皆さんどんな風に彼のことを観られましたか。彼にどれぐらい意思があって、それを表現してるのかっていうのは実は今でも僕自身、よくは分かっていなくて。
ある時は、映画の中に出てきたようにパチッとハッキリと瞬きをする時があって、「あ、彼は分かってるなぁ、感じ取ってるなあ」って思う時もあれば、例えば定時制高校の合格発表で掲示板を見に行った時に「5001番あった」っていう瞬間、僕がカメラを振ったら彼が全然別な方向を見てたっていう。あの時に、彼がどれぐらいあの場面を理解していたのかっていうことが、正直分からなくなってしまって。色々考えさせられました。
でも、今高校二年生なんですけど、とても充実しているとお母さんから伺ってます。中学の時は、同級生との関わりもあまりなかったんですね。常に大人が彼の周りにいると、学校にいても、例えば支援担任の先生だとか、ヘルパーや看護師が彼の周りにいつもいると。そうすると子どもたちはちょっと距離をおいてしまって、なかなか話しかけたり遊びに行こうっていう動きは少なかったと思うんです。
高校に進学してからは、定時制高校ということもあってかいろんな背景を持った生徒が来ていたり、それを受け入れる先生たちの度量も大きくて。今、科学部に入っていて「優太郎君のコミュニケーションツールを一緒に考えよう」っていう風に先生が言ってくれて、一緒に考えてるというようなことも出てきてると。クラスにいても他の生徒が積極的に関わってくれて、中学時代には考えられないことだったっていう風に仰ってました。
彼のような状態の人の多くは病院にいたり施設にいると思うんですけど、ご両親は「自分たちがフォローできなくなった後も彼を支えてくれる人を今からつくっていかないと、彼の人生が開かれていかない、閉じられてしまう」という思いで、どんどん外へ出していこうと進学し、その先にある「自立」ということも考えているのが、今の状況かなと思います。それは優太郎君自身に何度もご両親が確認して、本人も「そうしたい」という意思があってのことなんですね。
優太郎君が外に出ていき、いろんな人に知られ、彼を支えようとする人たちが生まれてくるっていうことが本当に大切なことだなという風に思っています。
もうひとつが、呼吸器を使っていても地域には出ていない方々のことです。今日来ている小田さんとかは本当に逞しくて、「安心・安全」っていうような言葉とはもうほど遠い生活をされてるような、海老原さんもそうですけど、そういう生活をしてる方は本当にごく一握りと思います。
在宅で呼吸器を使用している方は今、全国で2万2千人くらいいるんですけど、在宅生活と言っても、例えば映画に出てきた金子ゆかりさんという方は、4日前にここで話をしてくれたんですけど、今でも介助者との関係にすごく悩んでいて、夢はプラッと夜、ちょっと近所に散歩に出て星を見ること、野良猫を探すことだそうです。出かける日が週に一度と決まっていて、木曜日。その日雨が降ってしまえば介助者が来ても出かけることは出来ない。ちょっと外に出るのも難しい、っていう風になってしまう。
それは本人の「介助者にどこまで頼んでいいのか」っていう介助者との関係性についての悩み、自分はどうしても弱い立場にいるので、ちょっと「こうしてほしい」っていうことを言うと「いやそれは体に悪いんじゃないの」とか「もっと早く寝た方がいいよ」とか、少し夜更かしすると「早く寝なさい」と言われると。そういう健常者の無意識な暴力性というか、そういうものの中で暮らしてる人もたくさんいて。
「風は生きよという」のタイトルの「風」は、人工呼吸器の「風」なんですけど、その風が吹いている、人工呼吸器を使っているというだけでは別に積極的な意味は持っていないのかなと。でも、その風に乗って人と関わっていく、繋がっていくっていうことが、「風」の本当の意味かなと思います。
呼吸器を使いながら地域で暮らしていても、なかなか人と繋がれない金子さんのような人。それから僕は今回、取材をお断りされた方もいて。地方にお住いの筋ジストロフィーの女性はどんどん地域が過疎化していき、介助者が減っていく、それから看護師も減っていく、ヘルパーの時間数も減らされる、っていうようなところで暮らしてる方が、「もう自分が地域で暮らしていくのは無理だ」っていうような状況にあって、取材したいとお願いしたら、「ちょっとその余裕がありません」っていうことを言われて、断念したんです。
それからASLの方で、一人暮らしの男性なんですけど、その人は「呼吸器をつけない」と決めていました。「自分は呼吸器つけて生きていっても周りに迷惑をかけるだけだ」と、それに「自分がいても惜しむ人はいない」っていう思いで、つけないという選択をしている方でした。その方の思いも是非聞かせてもらいたいと思ったんですけど、「自分はもうつけないと決めているから」ということで、撮影が出来ませんでした。
今回の作品の中では本当に積極的な前向きな人たちを描いたんですけど、そうでない現実が一方にあるっていうことが、今なお…むしろそっちの方が圧倒的だっていうことも、是非、知っておいてもらえたらなと思います。
今日は本当にどうもありがとうございます(拍手)。
以上
(要点採録/文責 入間川仁)