だいぶ日が空いてしまいました。
昨年夏に行われましたアップリンクでの劇場トークのご報告、第21弾をお届けします。 今回をふくめて、残り2回です。
【7月10日(日)】
テーマ;「死の法制化を問う」
ゲスト;川口有美子さん(作家/ALS協会理事)、小田政利さん(出演者)
(宍戸大裕監督)
皆さんこんにちは。今日はご覧くださいましてどうもありがとうございました。監督しました宍戸と申します。今日は短い時間ですけれど、素敵なゲストをお招きしてトークさせてもらえればと思います。20分ぐらい予定しています。奥から作家でALS協会理事の川口有美子さんです(拍手)。それから映画にも出演してくださいました小田政利さんです(拍手)。じゃあ後は小田さんにお任せします。よろしくお願いします。
(小田政利)
はい。映画でちょこっとだけ出させてもらった小田で~す(拍手)。ありがとうございます。監督に「カメラ向けるとつまらない」と言われてですね(一同笑)…そうなんです。だからうち、部屋で撮影するって言って撮ってくれたのが、母親の遺影だけ(一同笑)。それだけだったんですけど。あとは福祉業界の大先輩の川口さんにお任せして。バトンタッチして、じゃ、川口さん。
(川口有美子)
じゃ、川口さん(笑)。ご紹介に預かりました、川口と申します。こうやって見ると何人かちらほらと知っている方がいると、余計に緊張するんですけれども。小田さんとは…かれこれ10年ぐらいですかね。最初に出会ったのが、あれは嵐の中、支援費制度が自立支援法になる時に障害者がみんな霞ヶ関に集まってデモ行進したりしましたよね、あの時かな。で、小田さんがいらして。思い出した?(笑)
(小田)
あ…はい(笑)。
(川口)
だから、だいぶ長いっていうか、こういうことをしてて随分経つんですけれど。
(小田)
お世話になっています。
(川口)
こちらこそお世話になっています。私、映画を観させて頂いて、常日頃そうやってお付き合いしている人達がこういう映画の中に出てきて、すごく感動した、カッコいいな、と。いつもと同じこと言ったりやったりしてるんだけど、やっぱりこういう風にして、枠組みの中で、監督の視点というか、意図を持ってこういう風に表現されると、また違うものになるなぁと思ったんですよね。だから皆さんは重要なことをやっているな、ということを改めて確認したっていうか。
(小田)
…はい(笑)。
(川口)
小田さん「はい」って言うしかないんですけど(笑)。今日は尊厳死法制化の話を少ししなければいけないということなんですけど。小田さんは今現在こういう風に呼吸器を付けていて、胃瘻は付けてないんですよね?
(小田)
はい、呼吸器だけで。はい。
(川口)
呼吸器を付けているんだけど、ALSの人との違いっていうのは、簡単に言うとどういうところ?ALSの人と比べてるんですけど。
(小田)
あ、えっと~…。僕、まぁパンフレットにプロフィール書かせてもらってるんだけど…、後でパンフレット是非買って下さいね(笑)。筋ジストロフィーで。ALSの方と違うのは、僕は筋肉自体の疾患で、ALSの方は脳から指令を送る伝達が難しいっていうことで。それでまぁ、見た目上、両方とも筋肉が弱くなっちゃうっていう。病気は大分違うって聞いてはいるんですけど。
(川口)
小田さんは呼吸器付けた時、気管切開をした時に、しゃべれなくなるかなっていう不安はあった?
(小田)
あ、もう散々言われましたね。
(川口)
ああ、やっぱりそうだったんですか。でも、結構筋ジストロフィーの人、鼻マスクだけの人が多いけど、気管切開しても声出ますし、ご飯も食べれるんですよね。
(小田)
そうですね。僕はもう、ホントに最初一年間くらいしゃべれないでいたのが、ちょっとテレビで声出せるのがあるよっていうのを知って、それ付けてみたら一発でしゃべれた。病院の先生や看護師さんから散々「しゃべれない」、「二度としゃべれない」って言われ続けてましたし。
(川口)
声出て良かったですよね~。
(小田)
はい、もうこの通りベラベラベラベラしゃべってます(一同笑)。
(川口)
なんかノンストップになりそうですね(笑)。えーとね、ALSの場合は、神経筋疾患と同じグループになってるけれど、主に運動神経が選択的に侵されていくので、しゃべったり食べたりが出来なくなる人が非常に多いんです。
ALSでも筋ジスと同じようにお話が出来る人もいて、色々なんです。でも、やっぱりしゃべれなくなる人が多いんですね。だからこう、筋ジストロフィーとALSって、見た目おんなじだし、どっちがどっちって分ける必要もないんだけども、やっぱりちょっと違うところはあるんですよ。でね、今日は尊厳死の話をしようと。ALSの人たちにとって自分の思ってることが言えなくなる、っていうことは凄く大きい。小田さんの場合はどうだったの?一応しゃべれたから、そこの部分の尊厳は守られてるじゃない。言いたいこと言えるしね。
(小田)
あ~、はい。でも一年間はずっとしゃべれなかったので、やっぱりあの、久しぶりに会う人とかはコミュニケーション上手く取れなくて。結構つらい思いをしたこともありますし。あと、親にも文字盤出されて、なかなか上手く使えなくて、「これしかコミュニケーション取れないんだよ」って言ってすごい泣かれたことがありまして…。
ただ僕の場合、濁点が文字盤にないことを伝えたかっただけなのに(一同笑)。泣かれてしまってどうしようということがありましたけど。
(川口)
やっぱり、どこかコミカルですよね~(笑)。そう…そうか(笑)。濁点を付け忘れちゃったんだ、文字盤を作った人が。
(小田)
あの病院にあった文字盤使ってたら、濁点、マルと点々がなかったんです(一同笑)。
(川口)
…で、結局分かってもらえたんですね?
(小田)
そうですね、翌日、落ち着いてから分かってもらえたっていう。ずーっとその日、一日泣かれてました(笑)。
(川口)
その時は尊厳どころじゃないっていうことですよね。濁点とマルが付いていないことを言えなかったわけですね。そっかー。今、現在はペラペラしゃべれるけどさ、小田さんが考える「尊厳が奪われてしまう瞬間」っていうか、「あ、今!」っていうの、あります?
(小田)
あ~。呼吸器付ける前に、ベッドから動けない。声も出せない。何よりも介護してくれる親にすごい迷惑がかかるっていうのを、テレビの報道でそういうのしか見てなかったので。本当に呼吸器を付けないでくれって言ってたんですけど、いざ酸素不足になってしまって意識不明になってしまった時に、家族が「人工呼吸器をつけてくれ」と。医師はその時「人工呼吸器付けたとしても意識が戻らない」「植物状態になります」っていう風に言ってたにも関わらず…。
(川口)
お医者さんがそんなこと言ってたの。
(小田)
はい。僕についている先生が何人も出てきて、うちの家族みんなにそう言ってて。それでも家族は人工呼吸器付けてくださいって言って。僕の意思とは裏腹に付けてくださいって言って。付けてくれたらもう本当に1時間だか2時間後すぐに意識を吹き返した。もし家族が付けないでくれって言ったら、もう僕はここにいませんでした。
(川口)
その時は意識不明だから、意思ってなかった。意思伝えるとか、それどころじゃなかった。
(小田)
ないですね。
(川口)
だから家族が決定してるんだよね。ちょっと尊厳の話は置いといて、みたいになるけど、治療の選択って、そいういう話なんですよね。尊厳死法制化っていうのは、あらかじめ「こういう風になりたくないよ」って書いておけば法律でしっかり「こういう風にならない」ように取り締まるっていう話です。はっきり言うと、障害者への差別的な意思があって、「重度障害を持つぐらいだったら死んだほうがまし」って 、あらかじめ一筆書いておけば障害者にならずにすむ。尊厳死を法制化するっていう話なんです。で、本人が意識がなくなってしまったり、高齢者になったり認知症になったり、自分で決められない時に、どうするかっていう判断を誰がするか、っていう問題ですよね。でも小田さんの場合はご両親が、小田さんに生きててほしいって思って決めたんだよね。
(小田)
その前にも僕から人工呼吸器付けないでくれっていうのは言ってたんで…。
(川口)
言ってた。それはまたどうしてそういう風に。ご両親に申し訳ないから?
(小田)
…なんかもう、呼吸器付けちゃうと僕から親が離れられなくなっちゃうとか。テレビの報道で、吸引なんかがあるから昼も離れられない、夜は夜で仮眠しか取れない、吸引が15分から30分おきにあるっていうんで眠れないとか、すごい家族に負担がかかるっていう、そういうテレビの報道しかなかったんで。僕は呼吸器付けないでくれって言ってた方です。それがイコール、リビングウィルみたいになって。
(川口)
そうですね。一応、口頭では残してたわけですね、そういう風にね。じゃあ当時、尊厳死の法律あったら、危なかったね、多分ね。
(小田)
もういないですよ、だから。
(川口)
いないね(一同笑)。結構、ここにいらっしゃるかなりの方が、いらっしゃらなかったと思う。岡部さんなんかも、最初呼吸器なんて(つけないって)、ね。呼吸器装着の意思決定にはドラマがありますね、一人ひとりにみんなドラマがあって。もう全部それ、映画にして頂きたいぐらいですけど。本当にね、私の母もそうなんですけど。それで私、本書いたんです。すごい葛藤もあるし、偶然もあるし、本当にね…。
だからね、あの…、まずひとつは本人が決められるんだったら決めた方がいいですそれは。付けたくないんだったら、本当に本当にそう思うんだったら、それはそれで私は付けなくてもいいと思うんですよ。それはちゃんとするべきだし。でもね、その前に、こういう状況を知っていてほしい、こんなに元気で生き生きと楽しく、冗談交じりでお話しもできるって。で、お話できないALSの人も、ちゃんとコミュニケーションの方法をいっぱい持ってますから、社会参加もできる、ということをちゃんと知っていて、選ぶ。それでも嫌だったら、いいよ。それはそれでね、その人の選択なんだけど。そういうことをちゃんとまずね、知らせなきゃいけないね。
まぁ、尊厳、尊厳と言うけれど、尊厳という言葉はあまり好きじゃないです。尊厳をもっていると思って暮らしている人って、そんなにいないんじゃないかなって。むしろ「自分の尊厳は」なんて思いながら暮らしているような奴はイヤな奴なんじゃないかと(一同笑)。
「楽しく」とか「ラクに」とか…どうですか。「普通に」とかね。うちの橋本操さん、昨日来られてたみたいですけど、いつも「普通に」って言うんですよね。普通。
(小田)
川口さん、今言ってくれた通りで、「尊厳」っていう言葉があると、どうしても「尊厳がある」っていう、その人の命に対してそういう言葉になってしまうので。「ある」「ない」って言ってしまうと、「ない」人の存在っていうのがどうしても言葉として出てきてしまうので、「尊厳」っていう言葉自体が、そういう風な比べるものになってしまうから、あまり好きではないですね。川口さんと同意見で。
(川口)
ね~。でしょ?むしろ私、小田さんの尊厳を「剥ぎ取る」楽しみっていう、ね(一同笑)。今日、発揮しようと思ったけど、可哀相だからやめときますけど(笑)。
(小田)
時間が押してくれたから…アブないアブない(笑)。
(川口)
そういう風に使う尊厳ならいいんだけど。今日、岡部さん(日本ALS協会会長)来てるから、岡部さんとのエピソード、ちょっと言っていいですか。橋本さんと岡部さんと帯広に仕事っていうことで行ったんだけど、仕事は3パーセントぐらいで、後はなんか、修学旅行みたいな。さくら会の修学旅行みたいな感じだったんですけど。まぁ仕事はサッサと終わらして。で岡部さんは昔ね、学生乗馬のチャンピオンだったんですよ。すごい乗馬の名手なのね。私、ALSになったのは、多分馬から落ちてこの辺(首のあたり)をやったからだと勝手に思い込んでるんだけど(笑)。
岡部さんと一緒に「ばんえい競馬」、行ったんですよね。帯広の。サラブレッドと違って、足の太い馬が本当に重いソリみたいなのを引いて、直線コースなんですけど山があってね、何回も。ちゃんと馬券を買って、1等2等3等って。私は買わなかったんだけど、岡部さんは馬を見る目があるから、学生さんに頼んですぐ買ってきてもらった。そうしたら、なんとその通りに当たったんですよ(一同「へぇ~!」)。「へぇ~!」でしょ!(笑)岡部さん、いくらがいくらになったかだけ言って。
(宍戸)
川口さん、岡部さんの紹介を…ちょっと。
(川口)
あ、そっか。岡部さんはね、今、日本ALS協会っていう、筋ジスと違う神経疾患ですけれど、会長さんになられました。ついこないだ国会でひどい目に遭って(厚生労働委員会にヒアリングで呼ばれていたにもかかわらず、時間のかかるコミュニケーション障害を理由に出席を直前になって断られた件)。もう岡部さん祭りになりました(笑)。どのチャンネルをまわしても岡部さんが映っていて(一同笑)。二日間くらい。厚生労働省もほぼ岡部さん祭りだったそうですね。もう岡部さん岡部さん岡部さん。
(小田)
ぜひ岡部さんと競馬場へ…じゃあ(一同爆笑)。
(川口)
あのね、そう。岡部さんと行こう競馬、なんかそういうの、やりましょうよ(一同笑)。岡部さんの言った通りにみんなで馬券を買うと。…で、岡部さん、いったいいくらがいくらになったの?
(岡部宏生さんの介助者)
2千円が4万円になったそうです(一同「おおお~!」、拍手)。
(川口)
はい、岡部さんと一緒に競馬に行きたい人~!(一同「は~い!」笑)岡部さんにプレッシャーを与えてどうすんのって感じですけど(笑)。それで、いい気持のままいざ東京に帰りましょうということで、ギリギリまでみんな遊んで帯広の空港に行って、みんなで夕飯に豚丼を岡部さんに御馳走してもらって。15人ぐらいいたんですけどね。さあ飛行機に乗ろうと思ったら濃霧で、羽田から来た飛行機が返っちゃったの(笑)。
で、帯広空港に私達だけ取り残されてました。そのうちの二人は呼吸器付けて胃瘻付けてて。もうね、他の国だったら安楽死の対象になる人が、「ここでじゃあ野宿か?」っていう。小田さんもJRの最終に乗り遅れて、駅で野宿したことあるよね。
(小田)
あ~、ありますね(笑)。
(川口)
それでどうしたかっていったら、ホントに野宿になるかなって。まぁ空港だし、夏だからいいかなって思ったんですけど。とりあえずその日2台の福祉タクシー使ってたんですけど、福祉タクシーの人に電話かけたら、なんと帯広の市街地から1時間かけて空港まで迎えに来てくれて、私達それに乗ってとりあえず帯広まで戻って、駅前のホテルに飛び込んで。ちょうどホテルの部屋が空いてたので、それでその日は泊まって翌日帰ったんです。
ただ荷物は宅急便で送り返しちゃってたから、エアマットもその他も。だから、岡部さんと操さんは、硬いベッドに寝て、もうひどい目にあって。だから遊びすぎると罰が当たるっていう(笑)。
(小田)
でも楽しそう。
(川口)
うん。予想外のことが起きるのが楽しい。
(小田)
筋ジスですけど、ぜひALSのツアーに入れて頂いて…(一同笑)。
(川口)
スリルとサスペンスですよ。さくら会についてこれるかな~、呼ネット。挑戦状をじゃあ、叩きつけて(笑)。まぁ、こういうことですよね。生きるなら楽しくやっていきましょう、っていうことで。尊厳死とかそういう法律は要らん。楽しく暮らすための法制度を作っていこうじゃないか、我々で。っていう感じで。
(小田)
言ってくれた通り、もう尊厳っていう言葉自体がなくなるようにね。「尊厳は死につけるんじゃなくて、生にこそある」って。生活にあると。でもそれ以前に尊厳という言葉自体がね、もう要らないんではないかなと。それぞれみんな同じく生きていければ。大事な命ですからね。
(川口)
はい。まとめて頂きました。ありがとうございました(拍手)。あ、それからちょっと漫画の紹介。今日は川口美怜さんが来られてるんですけど、この漫画の中に彼女が主人公になっている素敵なストーリーが出てます。「フォアミセス」。今、売ってます。ぜひ。よろしくお願いします。以上です。
(宍戸)
今日はありがとうございます。あらためてお二人に大きな拍手をお願いします。これで今日の回を終えたいと思います。本当にみなさんありがとうございました。お気をつけてお帰り下さい(拍手)。
以上
文責 入間川仁